『  See you ・・・!  ―  また ね! ― 

 

 

 

 

 

 

 *****  え〜 一応原作・あのハナシ設定なのですが・・・

       どうもこりゃ 平坊と平フランっぽいかも?

       ま・・・ お正月のほほん話 とご笑納ください。    *****

 

 

 

 

 

 

「 ― もう〜〜!!  知りませんッ!! 」

透りのよい声が きっぱりと言い切った。

「 ??? ・・・・・ 」

「 ・・・・・・・? 」

「 !? ・・・・・ 」

それまで 激しく言い合っていた声や、仲裁に入ろうと躊躇っていた声、呆れ返った唸り声・・・が

一瞬全て 消えた。  皆 息を飲み ― 目の前の光景を見つめている。

 

「 せっかく皆で 穏やかに新年を迎えようとしているのに! 

 どうしてわざわざブチ壊すようなことをするの?! 」

 

うらうらと明るい陽射しの中 ぴしり!と厳しい声音が大気を震わせる。

「 え・・・・ あの ・・・ それは つまり ・・・ 」

「 ・・・ その、 あ〜 ちょっとした意見の相違で 」

「 なに、皆ちょっと イライラ・・・ 」

男たちは一斉に もごもご・・・ぶつぶつ・・・ぼやきに近い繰言を述べ始めた ― が。

 

「 なによ、皆! すぐに言い訳して。  もう沢山。 ― あとは皆様でどうぞ! 」

  バン・・・!っと手にしていたイワンの哺乳瓶を床に叩き付ける − ようなことはせず

 ゆっくり静かに置いた。

そして ―

 

この邸を実際に仕切っている・女主人は 亜麻色の髪をふぁさ・・・ッと揺らし踵を返すと

悠然と しかし靴音高く 室内に戻っていった。

 

 

      ・・・・ ひゅるる〜〜  カサコソ カサコソ   

 

晴れ上がった空のもと、北風が吹きおりてきて・・・ 

そこいら辺に転がったままになっている松だの藁だのを揺らしている。

男どもはたった今までの激昂気分はどこへやら、呆然と彼女が去った方向を眺めていた。

   ・・・ 行っちゃったよ ・・・ 怒らせてしまった・・・ 

 

「 ― ねえ みんな!  彼女を・・・ フランを止めなくちゃ! 」

 

ジョーがやっと ― 金縛りから解き放たれたごとく一声叫び、ばたばたと邸内に駆け込んでいった。

 

 

 

  ― そもそも 言い出しっぺは 彼女、 フランソワーズ自身だった。

「 ねえ? 皆で協力して本格的な門松をつくってみない? 」

 

年末に集まった仲間たちに フランソワーズが提案した。

クリスマスを過ぎ そろそろ無聊を託ち始めた男たちはたちまち・・・・ <乗った>

新聞や雑誌を捲ったり 日向ぼっこしたり、ヘボ将棋ならぬヘボ・チェスを指していたり・・・

平和な日々はありがたいが いささか退屈していたのも事実なのだ。

 

「 本格的な・・・? 」

「 そうよ。 あのね、さっきネット検索してみたのよ。 ちょっと待ってね・・・ 」

ごそごそエプロンのポケットからメモを取り出した。

「 え〜とね、・・・ イヅモのワラ  に  トサのマツ あとは え〜と・・・タンバのタケ。

 ・・・でもこれってなあに? 松と竹・・・はわかるけど・・・ 

 これが 本格的な門松 の材料なの? 」

フランソワーズは首を傾げている。

パリジェンヌに 出雲だの土佐だの・・・まして藁とはなにか、などわかりはしないだろう。

他のガイジンどもも同様で 唯一の地元民に 全員の視線が集まった。

「 ・・・ ああ  うん、そのう〜〜 門松をつくる材料で・・・ 」

「 それはわかっているわ。 イヅモ とか トサ とか。 タンバ・・・ってなあに。 」

「 え〜〜・・・ それぞれ・・・名産の逸品、ということろかなあ〜  

「 ふうん・・・ ワインの銘柄みたいなもの? 」

「 ・・・ まあ  そんなところさ。 」

ジョーは適当にお茶をにごし、<材料>の収集について相談を始めた。

なにせ機動性抜群のゼロゼロ・ナンバーサイボーグ、 たちまち計画が立ち上がった。

退屈していた彼らは 嬉々として赤い特殊な服に着替え ― 約2名は空気の中に消えた。

しかしそれも束の間 ―

 

「 よ〜〜〜っす!  コレでいいかァ〜〜 」

「 ・・・ ただいま! 瀬戸大橋、初めて渡った♪ 」

「 藁ッテ コンナモノナノカ・・・ 」

 

材料はすぐに集まり あとは纏め上げるだけ、な段階になった時 ― 

男どのもくだらない諍いが始まったのだ。

まったく 幼稚園児の喧嘩にも等しい諍いで はじめフランソワーズは苦笑半分ながめていた。

彼らがふざけているのだろう、と思っていたのだ。

 

しかし ・・・ くだらない口争いは売り言葉に買い言葉〜 でどんどん状況は悪化しいった。

    ― そしてその結果。  

オトコどもの幼稚な喧嘩の結末にフランソワーズは激怒した。

ドイツ人がキレる寸前に パリジェンヌの方が爆発したのだ・・・!

 

 

 

「 ・・・どう だった? そのう〜〜まだ怒っているのかい、彼女・・・ 」

「 ジョーォ〜〜〜 オレが悪かったって言ってくれ〜〜 」

「 ・・・ 彼女は。  ・・・ そりゃ・・・ちと言いすぎたが ・・・ 」

しおしおと階段を降りてきたジョーに 男どもは口々に問いかけた。

 

「  ― いないんだ。  ・・・ 出て いっちゃった・・・ 」

 

思い詰めたセピアの瞳が 仲間たちを見回す。

「 ええ〜〜?!  ・・・ちょっと買い物に行ったのじゃないかね? 歳末バーゲンとか・・・ 」

「 そうそう! そうだよ きっと・・・ 気分転換 ・・・ 」

「 ・・・ 彼女は 怒っていた。  心底 怒っていた・・・ 」

「 コートもバッグも。 パスポートも・・・ないんだ。 」

「「「「「  え ・・・・ 」」」」

「 探してくる! それで ・・・謝ってつれて帰る! いや! 戻ってくださいってお願いしてくる! 」

「 おい、待て。  ジョー、落ち着け。 」

飛び出そうとしているジョーの腕を アルベルトががっちりと押さえた。

「 な、なんだよ?  なんで止めるのさ! 」

「 止めちゃいない。  ただ  その服ではマズかろう。 エア・ポートへ行くんだろ。 」

「 え ?  あ ・・・ 」

「 急いで行くには便利だろうけど ― その後のことを考えろ。

 その恰好じゃ・・・ 場所を間違えたコスプレイヤーに間違われるのがオチだ。 」

  ( 注 : コレは 12/31 のハナシです♪ )

「 う ・・・ そ ・・・そうかな・・・  でも! 急がないと! 」

「 ジョー? この島国から脱出するには飛行機に乗らなくちゃならんからな。

 陸路は考えなくていい。 焦るな。 」

「 ジョー! 僕がまずネットで彼女が乗りそうなフライトを調べるよ。

 多分 ・・・ パリ行きを当たれば・・・ 」

ピュンマは早速ノートPCを広げて検索をはじめた。

 

「 ・・・ うん ・・・それじゃ ぼく。 いそいで着替えてくるよ。 」

ジョーは再び階段を駆け上がっていった。

「 それじゃ・・・ アレ・・・仕上げるか・・・ 」

「 あ? ・・・ああ、そうだな。  これ・・・ 俺が切ってもいいか。 」

「 マツにタケにワラ・・・ こっちはいいぞ。 ああ・・・オッサン、巧く切ってくれや。 」

「 このワラをこう・・・巻くのか?  イテッ! 」

「 オレ やる。 まかせろ。 」

「 ほんじゃ・・・ま、 ワテは晩御飯の仕込みでもしておくアルね。 」

「 僕 手伝うよ。  あ・・・ また海老とか鮑・・・ 捕ってこようか? 」

「 そうだなあ。 美女のご機嫌を直して頂くためにも、美味い晩飯をたのむ・・・ 」

 

ジョーが革ジャンにマフラーを巻き込み玄関から駆け出してゆくのを、男達は申し訳ない気分で見送った。

 

 

 

 

 

そこは ・・・ ごった返していた。 朝の通勤タイムかバーゲン・セールか有明のイベントか・・・

この国中のヒトが 大挙して押しかけてきたのか・・?? 彼女は一瞬本気でそう思った。

老若男女 ― あらゆる年代のヒトがいた。

だれも かれも・・・ にこにこしているわりには疲れてうんざりした雰囲気でもある。 

彼女は一際混みあっているコーナーに 目を向けた。

「 なあに・・?? インフォメーション ・・・ お知らせ、ね。 あらあ・・・見えないわねえ・・・

 いいや、ちょっとだけズルしちゃお♪  え〜と ・・・? 」

人だかりのすこし後ろに立ち フランソワーズはじっと < 目 >を使っていた。

 

「 ・・・・・!??  え? 大雪??  ヨーロッパ方面の空港、ほとんど閉鎖?

 やだ・・・! シャルル・ドゴール空港も〜〜〜 」

 

「 どうしよう・・・・ 」

やだ〜 とか  え・・・マジ? とか 驚愕の声が群集の中から上がっていたが、

なにせ自然相手・・・ 怒っても嘆いてもどうしようもなく。

肩を竦めたり、 おも〜〜い溜息をついたり・・・掲示に集っていた人々は三々五々散っていった。

「 ― どうしよう ・・・ 」

フランソワーズは きゅ・・・っとバッグを持ち直したが これから行くアテなど  ない。

 

     帰る? ・・・ あの家へ・・・・

     ・・・ そんなこと、出来っこないわ

 

またまた大きな溜息が出てしまう。

 

      仕方ないわね。  ここの近くのホテルにでも泊まって

      天候が回復するのを待ちましょう・・・

 

急に寒くなってきた・・・ 彼女はマフラーをしっかりと巻きつけ、チケット・カウンターを

離れようとした。

 

 

      カンカンカン −−−−!!  

 

大きな足音がして 誰かが駆けてきた。

「 ・・?!?  ああ ・・・  ごめん! 遅くなって・・ よかった ミミ! 」

「 え?? あ ・・・ はあ?? 」

駆けてきた人物はそのまま・・・・ がば!と彼女抱きついてきた!

 

「 ?! きゃ あ〜〜  な なんなんですか??  ―  えい !! 」

さ・・・っと身を避けた目の前で踏鞴を踏んでいるのは ・・・彼女とあまり歳の違わない青年だった。

「 わわわ・・・!!?  ミミ〜〜 ごめん、怒るな〜〜 」

「 あの! わたし・・・ <ミミさん>じゃありません。 よく見てください! 」

「 ・・え?  ・・・・ あ。 あ〜〜〜 」

彼は見た目、ちょうどジョーと同じくらいの年頃、黒い瞳が印象的だ。

「 す、すみません!! とんだ人違い・・・ 失礼しました〜〜 」

「 あ ・・・そ そんな ・・・ 」

がば!っとアタマを下げた青年に フランソワーズのほうが驚いてしまった。

「 人違いをわかってくださればそれで結構ですわ。 じゃ・・・ 」

「 あ・・・! あの! 」

行き過ぎようとした彼女を 彼が呼び止めた。

「 ― はい? なにか・・・ 」

「 え・・・あ ・・・はい! あのう〜〜 ここに貴女くらいの女の子、いませんでしたか。 」

「 ・・・ 女の子?? 」

「 あ・・・ し、失礼しました。 そのう〜〜若い女性 なんですが。 」

「 その方が  ミミ さん なのですか? 」

「 あ はい、そうです。 僕たち・・・ ここで会う手筈だったのですが・・・

 僕が遅れてしまって。  彼女、迷っているかも・・・ 

「 あら。 二人でご旅行なの?  もしかして・・・ヨーロッパ方面? 」

「 いえ・・・ 彼女の到着を迎えにきたんです。 このロビーで待ってる約束だったのですが・・・ 」

青年は泣き出しそうな顔で きょろきょろ見回している。

「 まあ ・・・ じゃあ 彼女、きっと待ちくたびれて先に行っているのじゃあません?

 この国の方、なのでしょ? 」

「 え ・・・ いや〜〜 でもあんまり慣れてないはずなんだ・・・

 今日と明日、二人でゆっくりして ・・・いろいろ案内しなくちゃって。 今度はミミの仕事だから・・ 」

「 あら♪  仲良しでいいですね〜〜  カノジョを待たせちゃだめですよ? 振られちゃってよ。 」

「 ―  ・・・・ は? 」

フランソワーズはちょっとばかり冷やかし気分のからかい半分だったのだが・・・

どもうこの青年にはまるで通じていなかった。

彼は 目をまん丸にして怪訝な表情をしている。

 

     あら。   やだわ、このヒトも ジョーと同じ?

     ・・・ この国に青年って みんな<ぼくねんじん> なの??

 

「 あの・・・? 」

「 あ あら・・・ だって恋人同士なのでしょう?  もしかして遠距離恋愛なのかしら。 」

「 えんきょり・・・ なんですって? 」

「 だから・・・ 貴方と そのミミさん。 空港で待ち合わせ、なんて素敵ね。 」

「 あの・・・ なにか誤解していらっしゃいませんか。

 僕たち ― 仕事仲間なんです。 」

青年は大真面目、しっかりフランソワーズを見つめて話している。

「 まあ  ごめんなさい。 わたしてっきり貴方が照れ隠しに惚けているのかと思いましたわ。

 でも・・・お仕事なら余計に 時間厳守でしょう? 」

「 はい。  遅れた僕が全面的に悪いです。  じつは・・・まだ遣り残したコトがありまして。 」

「 そうなの・・・でもね、 ぼんやり待ちぼうけを食った女の子の気持ちもわかってあげて? 」

「 ・・・ はい。  ああ でもどこへ行っちゃったんだろう・・・

 ココは多分初めてなはずなんだ ・・・ 」

「 あの・・・・ よかったら・・・ 」

「 ― はい? 」

 

    ・・・・ それで。  結局フランソワーズはその青年に協力することとなった。

欧州行きの便は まだ当分出発できそうにもないし・・・

彼女にとっても 恰好の時間潰し・・・だったのだ。

「 でも。 探す・・・ってどうやって? 彼女が行きそうな場所、わかるの?

 だって 彼女は初めてここに来るのでしょう? 」

「 そうなんですけど。  でも ・・・ 仕事の引継ぎと特別な休暇の予定なんです、

 今日と明日。  それで二人で行きたい場所・・・とか連絡しあっていたのですが。」

「 まあ ・・・ ふふふふ ・・・ 」

「 あの・・・? 僕、なにか可笑しなこと、言いましたか。 」

フランソワーズはくすくす笑いだしてしまい・・・ 青年はますます困った顔をしている。

「 え いいえ いいえ・・・ ごめんなさいね、笑ったりして・・・

 ちょっと・・・あなたと同じこと言うヒトのこと、思い出したので・・・ 」

「 ・・・ はあ ・・・? 」

「 ・・っと、 ごめんなさい。 それじゃ・・・ミミさんは先にそっちへ行っているかもしれないわね。

 ここに一応伝言を残して・・・ 行ってみましょうか。 」

「 そうですね・・・ ここでぼんやり待っていても仕方ありませんし・・・ 」

「 いいわ、お付き合いしますわ。  どうせ・・・この分だと今日のフライトは無理そうだし。 」

フランソワーズはスケジュール・ボードを見上げたが 相変わらずキャンセル表示ばかりだった。

「 ありがとうございます!  あ・・・ 僕、大牙 ( たいが ) といいます。 」

「 わたしはフランソワーズ。  それじゃミミさんを探しにゆきましょう、タイガさん。 」

「 フランソワーズさん・・・キレイな名前ですね。 あ 大牙 でいいです。 」

「 わたしも フランソワーズ で結構よ。 

 それじゃ・・まずどこに行く予定だったの? 」

「 えっと・・・ トウキョウタワー。  ミミが行ってみたいって・・・ 」

青年はちょっとだけ・・・赤くなった。

 

    ふふふ・・・ なあんだ・・・ 仕事だ、なんて。

    この二人 ちゃんとしっかり恋人どうし、じゃない?

 

    ・・・ なんか ・・・ ジョー みたい・・・

 

「 それじゃ・・・ ( あ・・・ 腕を組んだらだめね。) 行きましょうか。 」

フランソワーズは習慣的に腕をかけようとしたが さりげなく引っ込めた。

「 はい。 あ・・・ こっちですよ、モノレールで行けますから。 」

青年は先にたってずんずん歩いていった。

 

 

 

 

ジョーは 焦っていた。

エア・ポート目指し 成田に向かいかけ ・・・ ふと、ピュンマが書いてくれたメモを見直し

「 ?  あ! そうか! 羽田からも国際便、飛ぶんだよな〜〜 

慌てて方向チェンジし ― ばたばたターミナルビルに駆けつけた。

大晦日、ごったがえす人波をかきわけ国際線ロビーに辿りついた。

「 え〜と・・・  うん? ・・・え??   キャンセル??? 

 この便も ・・・あ、次のもその後のも・・・ ?? 」

ジョーは やっとヨーロッパ方面大寒波につき空港閉鎖 に気がついたのだ。

「 それじゃ・・・ともかくフランはまだ国内にいる・・・ってことか。

 よかった・・・  あ? それじゃ 今 どこにいるんだよ〜〜 」

呆然と キャンセル表示のボードを眺めていたが

 

「 ・・・・!  ここにいたのね!! よかった〜〜!! 」

 

高い声がして ― とん・・・!  なにかがジョーの背中に張り付いた。

「 ???うわわわ ?!?!? 」

不意打ちを喰らい、ジョーが一瞬 臨戦態勢を取りかけたとき

「 こ ・・・ 心細かったんだからァ〜〜 」

コートの背中が きゅっとつかまれじわ〜〜っと温かくなった。

「 あ ・・・ あのう〜〜〜 ・・・・ もしも〜し・・・? 」

「 あの・・ね、 予定より早い便に乗れたの。  でも 雪ですご〜く視界が悪くて・・・

 随分揺れたわ、恐かった・・・ 大牙に早く会いたい!って目を瞑ってお祈りしてたの・・・ 」

背中では半分泣き声まじりのお喋りが続いている。

シュン・・・とハナを啜る音も聞こえてきて・・・

 

     うわ・・・! このコート・・・気に入ってるんだよ〜う・・・

     勘弁してくれ 〜〜  って このコ誰だよ?

 

ジョーはそうっと腕を後ろに回し ・・・ とんとん・・・と彼女の肩とおぼしき場所を叩いた。

「 すみませ〜〜ん? ちょっとだけ・・・放してくれませんか〜〜

 人違いしてるみたいなんですけど〜〜 ? 」

「 いっくら待っても 大牙ってばこない・・・ え??? えええ??? 」

ぱ・・・っと 背中の熱いカタマリがはがれた。

「 ・・・ え ・・・ 大牙・・・じゃないの???  あ ! そ そういえば髪の色がちがうし・・・

 コートも ああ 私ったら・・・! 」

「 あ  そんなに引かないで・・・ ね? ヒト違いでしょう? 」

ジョーはくるり、と彼女と向き合いちょこっと微笑んでみせた。

「 ・・・・・・・・・・・ 」

背中の主は だまってコクコク頷き大きな瞳をもっと大きく見開いてジョーを見つめている。

 

     あれ ・・・ なんか 可愛いなあ・・・

     真っ白のコートとふわふわの帽子がよく似合ってる・・・

 

     真っ黒な瞳がきれいだ。

 

ジョーもちょっと見とれてしまった。

「 ・・・ あ ・・・ ご ごめんなさい・・・・!  わ 私ったら・・・・ 」

彼女はぱっと身を翻し駆け出そうとした。

「 おっと・・・ ちょっと待って?  誰かを待っていたのかな。 」

ジョーはするり、と彼女の腕を捕まえた。

「 あ・・・!   え ・・・ええ。 ここでずっと待っていたのですけど・・・

 でも私が早い便だったから  でも全然連絡とれなくて  でも でも ・・・ 」

だんだん言葉はしどろもどろになり 涙声になり ・・・ とうとう彼女は泣き出してしまった。

「 あ・・・ 泣かないで・・・ ほら ちょっとそこのカフェで休まない?

 ぼくもヒトを探しにきたんだ。 

「 え・・・ あなたも? 」

「 ウン。  あ、 ぼく ジョー。島村ジョー っていいます。 」

「 ・・・ 私 ・・・ ミミ。 」

「 ミミさん、か。 可愛いなあ・・・・ ね? なにか暖かいものでも飲もうよ? ね?

 実はさ、ぼくも咽喉が渇いてるんだ。 」

「 ・・・・・・・・・ 」

こっくり頷くと 彼女は大人しくジョーの後についてきた。

 

 

  ― 彼女、 ミミは アイス・ミルクをオーダーした・・・・

「 え・・・ 暖かいモノの方がよくないかい? 

「 ・・・ネコジタなの・・・。  ネコじゃないんだけど・・・ 」 

ミミはちょろり、と舌を覗かせて笑った。

「 そっか。  それでず〜っと待っていたんだね、 その・・・ 」

「 大牙。  お仕事の引継ぎと・・・休暇を一緒に過す約束、したんです。

 今日と明日だけだけど・・・ 」

「 ふうん ・・・ それじゃそのカレシも君のことを探しているんじゃないのかなあ・・・ 」

「 ・・・でも どこにもいないの・・・ 」

ほろり・・・とまたまた涙がこぼれおちる。

「 携帯とかで連絡してみた?  」

「 ・・・ けいたい ・・・ 持ってない・・・ 」

「 あ そうなんだ? それじゃ・・・公衆電話使ったら? 番号はわかるでしょう。 」

「 ・・・・・・・・ 」

ミミは黙って首を振った。  

 

     へえ・・・? 今時 携帯持たないカップルもいるんだ?

     あ・・・ このコ、海外から来たって言うからな・・・

 

     それにしても! カレシは何やってんだよ!?

     こんな可愛いコを泣かせるな〜〜

 

ジョーは。  自分のことなどはるか頭上に放り投げてかなり本気で腹を立てていた。

「 それじゃ・・・一緒に行く予定の場所とか決めてあるかな。 」

「 ええ。 トウキョウに着いたらすぐに案内して!って 頼んであるの。 」

「 わお、それじゃ・・・そこで待ってみようよ?

 あ・・・勿論、ここの伝言板にもメッセージを置いて、さ。 」

「 ・・・ ん・・・ あ、 あの。 ありがとうございます・・・ でも どうして・・?

  全然知らないヒトなのに・・・ 親切にしてくださるのですか。 」

「 え ・・・ う〜ん ・・・あ! あの! 君ってなんとなくぼくの い・・・妹に似てるんだ・・・

 それで ・・・ そのう つい ・・・ 放っておけなくて さ。 」

 

      妹・・・?! うわ〜〜 よく言うよ 〜〜!

      ジョー、お前〜〜 デタラメもほどほどにしとけ・・・

 

ジョーは自分自身で激しくツッコミをいれ、ひそかに赤面していた。

「 そ・・・それで どこかな? その <すぐに案内して>ほしい場所って。 」

「 ・・・ トウキョウ・タワー。 」

 

 

「 はい。 ではメッセージ、 お預かりします。 なお 保存時間は― 」

インフォメーション・デスクの受付嬢は お決まりの文言を自動的に口にしつ・・・

目の前の <申し込み者> と <メッセージ> をちらちら見していた。

 

      トウキョウ・タワーで待つ ―  ふうん???

      もっと具体的な方がいいんじゃないのォ・・・

 

ま、知ったこっちゃないや、と彼女は 営業用にっこり♪ を客の青年に返した。

「 それじゃ お願いします! 」

彼はセピア色の髪をゆらし、 にっこりわらってお辞儀さえしていった。

「 お〜♪ そそられますなあ〜〜  ・・・ うん? なに? 」

隣の同僚が つんつん・・・と彼女を突いた。 

彼女の前からも 同じくらいの年頃の青年が軽く会釈して列を離れてゆく。

「 ねえ〜〜 いいじゃん? あのコ・・・  大牙 だって。 」

「 お〜〜すごい名前だね〜 え・・・ あら?さっきの客と兄弟?? よく似た雰囲気ねえ、 

「 ん?  あれ〜〜 ホント・・・ 

 やだ〜〜 それに、 同じ伝言じゃない・・?  東京タワーで待ってます ?? 」

 「「 どういう仲間なのかしらね??? 」」

 

ジョーと大牙は。 同じ伝言を並んでインフォメーションに預けていたのだ。

・・・・ もちろん、面識はないからお互いに  <ただ隣にならんだヒト> にすぎない・・・

 

 

 

 

「 うわ〜〜  足元にくると・・・高いわねえ・・・ 」

「 あは・・・ 貴女はパリジェンヌでしょう? お国には有名な塔があるでしょう? 」

しげしげと東京タワーを見上げているフランソワーズに 大牙が笑っている。

「 え ・・・ でもねえ。 地元の名所って案外、行ったことがないのよ。

 大牙は ここ・・・初めて? 」

「 いや 一年前に登りました。 ・・・ いい所ですよ。 ミミを案内しようと思ってたんだ。 」

「 いいわね〜〜 空中デート? 」

「 デート、だなんて そんな。 僕たちは別にそんなんじゃなくて、ですね・・・ 」

「 ・・・え? 

まるでジョーみたいな言い草の大牙を フランソワーズはしげしげと見つめてしまった。

「 ・・・ あのぅ・・・? 」

「 あ ご、ごめんなさい。  わたしの知り合いとそっくりなコト、言うから・・・ 」

「 え・・・ そのヒトは ― 恋人? 」

大牙の黒い瞳が 悪戯っぽく輝き見つめてきた。

「 ・・・ そのつもり、なんだけど。  でも 向こうは ・・・ そう思ってないみたいなの。 」

「 そうですか?  ・・・ こんな美人を放って置くなんて。

 ソイツ・・・ 鈍過ぎ、なんじゃありませんか! 」

「 ・・・ まあ。  ふふ ・・・ ふふふ ・・・ 

 いやだわ、もう。  みんな自分のことって全然わかってないのねえ〜〜 」

「 ・・・ はい??? 」

 ・・・くすくすくす・・・・ フランソワーズはついに声を出して笑いはじめた。

「 い、いえ・・・ごめんなさい〜 わたしってば自分自身のことが可笑しくて・・・ 」

「 はあ・・・ あの! 貴女の<知り合い>さん にあったら、僕・・・ひと言いってやりますよ! 」

「 まあ ありがとう!  それじゃ・・・わたしも あなたのミミさんに代わってひとこと。」

「 ミミに?  ・・・ あのう〜〜 」

「 ふふふ・・・  ようく聞いて?

 大牙、 君って  ほっんとうに何もわかっていないのよねえ 。 」

「 ・・・ はあ ・・・ 

大牙は相変わらずなにがなんだか・・・という顔をしている。

「 うん、それじゃ せっかく来たのだから昇ってゆきましょう。

 大牙は <でーとの下見> でもしたらいかが? 」

「 だから〜〜 デートじゃないんですってば・・・ あ 、待ってくださいよ〜〜 」

フランソワーズはさっさと展望台への入り口へ歩いていってしまった。

青年は あたふたと彼女の後を追った。

 

 

 

「 きゃあ〜〜〜〜 きれい♪ ねえねえ・・・ あの、あっちのもっとノッポなのはなあに? 」

「 うん? ああ あれはスカイ・ツリーさ。 もうこの東京タワーを抜いたなあ。 」

「 ふうん・・・ すご〜〜い・・・ シンジュクの高いビルがちっちゃくみえるぅ〜〜 」

 

ジョーは 迷子の女の子 と一緒に東京タワーまで来ていた。

大晦日というのに 結構混んでいて、しばらく待ってから二人は展望台まで昇った。

 

     へえ・・・? 案外広いんだなあ・・・

     ぼくも初めて来たけど。  ふうん ・・・遠くまでよくみえるな

 

ジョーも周囲を見回し 少しばかり感動的だった。

そして 連れの女の子 ― ミミは展望台で大騒ぎをしていた。

真っ白なコートの可愛い女の子が 白い耳当てをゆらし、強化ガラスに張り付いている。

「 おい・・・ そんなに騒いじゃ・・・迷惑だよ? 」

ジョーは周りの視線を気にして くいくい・・・と彼女のコートをひっぱった。

「 え〜?  ・・・ 平気よ、皆 外、見てるもん。 」

「 え? ・・・ あ ほんとだ・・・ 

気がつけば 周囲の人々もガラスに顔を押し付けるみたいにして熱心に外を眺めている。

たか〜い・・・だの すご〜い・・・だの うわ〜〜・・・ だの・・・ いろいろな声がして

ミミの声など静かなほうだった。

「 ジョーさん ・・・ ジョーさんはここに来たこと、あるの? 」

「 いや ・・・ 地元民って案外名所には疎いものでさ・・・ でも いいところだね。 」

「 ね! ジョーさん、< 妹 > さんと来なくちゃだめ。 」

「 え・・・ い 妹 ・・・と? 」

「 そうです。 ふふふ〜〜〜 本当は カノジョ でしょう? 

 ・・・けんか でもしたんですか? 」

「 え・・・・! ぼ、ぼくたちは別にそんな・・・ け 喧嘩なんて・・・ 」

「 ジョーさんってば。  もう〜〜 大牙とおんなじこと、言うんですね。 

 あの ね。  ・・・ 教えあげましょうか。  」

「 え。 な なにを・・・? 」

「 女の子の き も ち♪  別にそんな・・・ なんて言ってたら。 そっぽ向かれますよ。 」

「 ・・・・・・・ 」

「 あ〜 手が汚れちゃった・・・ちょっと洗面所、行ってきます。 」

「 うん ・・・ じゃ 下の昇降口で待ってる。 」

ミミは 白い耳当てをぽんぽんゆらしつつ駆けていった。

「 ふう・・・  もう・・・  」

ジョーは溜息をつきつつ ハンカチを出しごしごし顔を擦った。

 

      あ〜あ・・・ もう・・・ やられっぱなしだよなあ・・・

      へえ・・・白い毛皮がよく似会う・・

 

      ・・・フランにも あの耳当て、似会いそうだ・・・

      プレゼントしたら・・・怒るかなあ・・・

 

 

 

 

「 あ・・・ ごめんなさい・・・ 」

「 ? いいえ ・・・ 」

鏡の前で とん・・・・と肘同士が当たってしまった。

ミミは 隣で手を洗っていた亜麻色の髪の女性に慌てて謝った。

「 あの・・・ 水、飛びませんでした? 」

「 平気です。 気になさらないで・・・ 」

「 すみません ・・・ 」

軽く会釈を返すと その女性は熱心に鏡をみつめルージュをなおし、早足で化粧室を出ていった。

「 ・・・ うわあ・・・ なんか素敵なひと・・・!  

 あんな風になりたいなあ・・・ 」

ミミは ぼう〜〜っと彼女の後ろ姿をみていた。

「 ・・・あ  いっけない。 急がないと〜〜 ジョーさんがまた心配しちゃうわ。 」

彼女はハンカチを小さなバッグに押し込むと 小走りにエレベーター口にむかった。

女性が鏡に向かっている時 ― みつめているのは自分自身だけ!

これは洋の東西、老若を問わず 女性の永遠の真理であり、当然視聴覚強化のサイボーグ003も含まれる。 

つまり。  ほんの目と鼻の先に誰かさんがいても <見る>気がなければ気がつかないのだ。

 

 

 

 

「 面白かったわ〜♪  東京って綺麗ねえ・・・  あら、どうしたの? 」

フランソワーズはタワーの昇降口で つれの青年を振り返った。

彼女はとんとん弾む足取りで歩いてきたので 置いてきぼりにしてしまったらしい。

彼はなにやら赤い顔をして ハンカチで汗をぬぐっている。

「 暑いの?  ・・・ そんなにヒーター、効いてなかったと思うけど。 」

「 え ・・・ いえ。 暑いんじゃなくて・・・ そんな、ツーショットなんて・・・ 」

「 ツーショット?  ・・・ ああ さっきの記念写真のこと?

 やだわ〜〜〜 並んで撮っただけなのに、な〜に赤くなっているのよ。 」

「 え・・・でも。 周りのヒトたちが・・・その、いろいろ・・・ 」

「 あ〜ら・・・わたしじゃご不満? 」

「 い いえええ! とんでもない!! だ だけど・・・その。 ご、誤解されたら・・・

 あなたの <知り合い>さん に申し訳なくて・・・ 」

「 あら・・・ 」

 

 

展望台で写真を撮った。 

「 は〜い もっとくっ付いて〜〜 イイカンジだよ、お二人さん♪ 」

親切にも ( お節介にも? )  < お揃いのところを撮ってあげるわ > と

どこかのおばちゃんが フランソワーズと大牙を並ばせたのだ。

「 カレシ! ほらほら〜〜 もっとくっついて! 」

「 え・・・ あ あのう〜〜〜 」

「 ほらア〜〜 肩くらい抱いてあげないと♪ ガイジンさんはそうするモンでしょ。 」

「 い いえ あの ぼ 僕たちは ・・・ 」

どぎまぎしている大牙のコートを くい、とひっぱり、フランソワーズは何気に前に出た。

「 ・・・ あら ・・・ ありがとうございます。 」

「 おや〜〜 日本語、上手だねえ〜 ほら、 撮るよ! はい ち〜〜ず!! 」

 

    ―  ぱしゃ。

 

出来上がった写真には 生真面目な顔の青年と魅惑の微笑みの美女が写っていた。

 

 

「 いいわ、べつに。  ・・・ わたしだって一緒に写真を撮るひとくらい 居るのよ。 」

「 ・・・ やっぱり喧嘩しているんですか? 」

「 け 喧嘩なんてそんな。  誰がジョーとなんか・・・・!  あ。 」

「 ふふ・・・ <ジョー>さん っていうのですね。  <知り合い>じゃなくて恋人ですよね。 」

「 ・・・ 喧嘩にもならないんだもの。  追いかけても来てくれないし。 」

「 はい、 この写真。  記念にどうぞ。  < ジョー>さん に見せてください。 

 多分ね、 彼もきっと今・・・ 貴女のことを探していますよ、必死で。 」

「 え・・・ そんなこと・・・ 」

「 なんだか親近感が沸いてきましたよ、その <ジョー>さんと。

 さあ ・・・ そろそろエア・ターミナルに戻ってみましょうか。 彼、いるかもしれません。

 ミミともきっと会える ・・・そんな気がします。 」

「 ・・・ そう 思う?  」

「 うん。 僕のカンって結構当たるんですよ。 

 僕も ・・・ ミミが近くにいるみたいな気がしてきましたよ、なんとなく、ね。 」

「 ・・・・・・・・・ 」

「 ごめんね、って言います 彼女に。 

 近くにいると ・・・ なんだか照れてしまって言えないんだけど・・・ 

 やっぱりミミは僕の大切なヒトなんだ。  あは・・・ 貴女の前ではすらすら言えるのになあ・・・ 」

「 大牙 ・・・・ 」

「 きっと・・・ 彼も同じだと思います。 」

「 ・・・ 彼? 」

「 ええ。  < 知り合い > の < ジョー >さん ・・・! 

「 もう〜〜〜大牙ってば、・・・意地悪・・・! 」

「 ははは・・・ごめんなさい。  さ それじゃ ・・・ ハネダに戻りましょう。 」

「 ・・・ ええ。   あの・・・ 」

「 なんですか? 」

「 ありがとう・・・! 大牙君。 ・・・わたし、あなたに元気をいっぱい貰っちゃった。 」

「 よかった・・・! それが僕の仕事ですからね・・・ 」

「 え  なあに? 」

「 いや・・・ さ、それじゃ・・・行きましょうか。 」

「 ええ。 」

二人は連れ立ってモノレールの駅目指して歩き始めた。

 

     ひゅん −−− !  高い塔の足元を冬の風が通りすぎていった。

 

 

 

「 わ〜〜〜 あれ! あれはなあに?! 」

ミミは前方を指さすと ジョーの返事など待たずに駆け出していった。

「 ・・・わ! おい〜〜 待てったら〜〜〜 」

白いコートの後姿がどんどん遠ざかってゆく。

「 ま〜ったく〜〜 なんて足が速いんだ〜〜   ハア・・・

 あれって・・・? ああ 仮設のスケート・リンクじゃないか ・・・ 」

ジョーは本気で加速装置でも使いたい・・・!とチラっと思いつつ、溜息まじりに彼女の後を追った。 

「 ・・・ 待てったら! ・・・ ほんとに 君は・・・ 」

「 ジョーさん! ねえ、 あれ! なんなのかしら?! 」

追いついてきたジョーのコートをひっぱり ミミの目はまたまたまん丸だ。

「 はア・・・  あれはスケート・リンクだよ。 

 ほら・・・冬場だけの臨時屋外リンクらしいけど。 皆楽しそうに滑っているだろ? 」

「 スケート ・・・?   あの・・・靴で 滑るの? 」

「 うん。 ・・・ あれ、スケート、やったこと、ないのかい。 」

「 ウン。 ―  ねえ  教えて? 

「 え?? だってエア・ターミナルに戻るんだろう?  

 ほら・・・ タイガ君 だっけ? 彼が待っているよ きっと。 」

「 う〜ん ・・・でもちょっとだけ!  つるつるの上でくるくるやってみたいの。 」

「 え〜〜 ぼくだってくるくる・・・は出来ないよ。 

 でも・・・滑るだけなら ・・・ なんとか・・・ 」

「 うわ〜〜い♪  行きましょ♪  ほら  はやくぅ〜〜〜 」

「 はいはい ・・・・  」

ミミは相変わらずちょんちょん跳ねてゆく・・・ ジョーは苦笑するしか ない。

 

       あ ・・・ でも なんか。 楽しいなあ・・・

 

       そうだ!  今度 ・・・ 今度フランを誘ってみようかな・・・

       あ〜 でも 脚に悪いからダメって言われちゃうかなあ・・・

 

「 ジョーさん? は〜やく〜〜〜  靴、履いたわ〜〜 」

「 待てってば・・・ 」

ジョーはようやく追いついた。

 

 

「 それでね 重心はちょっと前に置くんだ。 前屈みになって・・・ 」

「 え? え〜〜  あ・・・ わあ〜〜ん ・・・・! 」

    ばしゃ。  白いコート姿がリンクの上に座っている。

「 いった〜い・・・オシリ、ぶつけちゃったあ・・・ 」

「 ははは・・・ ほら、跳ねちゃだめだ。  脚をね、押し出すカンジ。 」

「 え ・・・ こ・・・ こう?  きゃ・・・ 」

「 そうそう・・・ 仰け反っちゃだめだよ、前だよ、 重心は前! 」

「 う ・・・ うん ・・・ あ ・・・進む〜〜 うわ〜〜お♪ 」

「 その調子だよ ・・・ ほら ・・・ぼくの手につかまっていいから さ。 」

「 わ ・・・あ ありがとう! ジョーさん  きゃっほ〜〜♪ 」

ジョーにひっぱれる形で ミミはなんとか滑り始めた。

狭いリンクだが 風をきって滑るのはやはり気持ちがいい。

 

「 ・・・ ジョーさん。 ありがとう〜〜〜 ! 」

「 え。 そんなにスケート、してみたかったのかい? 」

「 ・・・ 楽しいから! とっても楽しいからよ♪

 ジョーさん・・・  絶対カノジョを誘ってあげてね。

 女の子はね、 スキはヒトと一緒ならなんだって<楽しい>のよ〜〜 

「 ・・・え ・・・ だってフランには退屈かも・・・ 」

「 ふうん? <フラン>さんっていうの? 」

「 ・・・あ。  ・・・ぅ  うん。  フランソワーズ。 ・・・ぼくの大切なヒトなんだ。 」

「 ね?それを、ちゃんと言ってあげて?

 私も ・・・ 大牙に そう言って欲しいの。 」

「 ・・・ うん、わかった。  それじゃ あっちの角からぐる〜〜っと滑ってゆこう!

 ほら・・・ ? 」

ジョーは ミミにさ・・・っと腕を差し出した。

「 ― うん♪ 」

二人はしっかりと腕を組んで 颯爽と・・・・とは行かなかったけれどゆっくり滑走していった。

 

       そっか・・・ 女の子 ・・・ そうだよなあ・・・

       フランだって この子とあんまり変わらない 女の子、なんだよな〜 

       もっといろいろ・・・二人で喋って 走って ・・・ 

       そうだよ、スケートだって 誘ってみよう!

 

       ・・・それで 言うよ。 うん、ちゃんと。 はっきり。

 

       フラン ・・・ きみのこと、大好きだよ・・・って・・・!

 

晴れた冬空の、意外と近くに旅客機が飛び立ってゆくのが見えた。

 

 

 

 

空港は相変わらずごった返していた。 

「 ・・・ まだ キャンセルばっかりなのかしら・・・ 」

国際線ロビーで フランソワーズは溜息まじりにインフォメーション・ボードを見上げた。

「 これじゃ・・・ 当分パリには発てないわねえ・・・ 

 ねえ 大牙・・・ ミミさんはみつかりそう?  ね、どんな服装かわかる? 

この際だ、目も耳もフル・オープンで使おう!とフランソワーズは決心した。

「 あの ね、 大牙・・・わたしが探すから ・・・ あら? 

 

「 ・・・! 」

青年はフランソワーズを追い越すと一目散に前方に駆けてゆく。

そのもっと先から  真っ白な姿が跳ねるみたいに走ってきた・・・!

「 タイガ・・・!  やっと会えた〜〜〜!! 」

「 ミミ!  ああ よかった! 

「「 それじゃ ―   」」

大牙とミミは向き合うと  きゅ・・・っと握手を交わした。

「 次 ・・・ 頼むな。 」

「 まかしといて・・・! 」

二人はしっかりと見つめあい 頷き合い ― それから 

「「 会いたかった〜〜〜 !!! 」」

・・・ ごく普通の恋人同士になり抱き合った。

 

「 ・・・ よかった・・・ 見つかったんだな。 」

「 え??? 」

すご〜〜〜く聞き慣れた声が すぐ後ろから聞こえてきた。

「  ―  ジョー!?? 」

「 ふ、フランソワーズ!? 」

「「 どうして ここに???  」」

「「 あの 彼 ( 彼女 ) の人探しを手伝って 」」

「「 えええ・・・??? 」」

 

「 ・・・・ そうなの? 」

「 そうなんだ・・・  」

 

ふふふ ・・・・ ははは ・・・・

二人はじっと見つめあい自然に声をあげて笑いだしてしまった。

「 あ! あの!   ・・・ ごめん!! ぼく・・・ 気が利かなくて・・・さっきウチで・・・

 それに 皆からの伝言があるんだ。 」

「 伝言?? 」

「 ウン。  あの、さ。  フランソワーズの大晦日をめちゃめちゃにしてごめんなさい!  って。 」

「 ・・・ まあ ・・・ 」

「 今頃ね、 きっと。 アルベルトたちは門松を作っているし、 大人はお節の仕上げをしているよ。 

 ― 帰ろうよ ・・・ 一緒に。 」

ジョーは にっこり笑うと手を差し出した。

「 ・・・ わたし こそ・・・怒鳴ったりして ごめんなさい・・・。 帰りましょ・・・ 一緒に。 」

もじもじ出した白い手を 大きな手ががっしりと包む。

 

   「「   ごめん ・・・ 」」

 

「 ・・・ あら? あの二人はどうしたかしら。 」

「 え。  あ  あれれ??? 」

 

―  ジョーとフランソワーズが振り向いたとき、大牙とミミ、二人の姿はなかった。

彼らが立っていたロビーの一角には ・・・

 

    寅から卯へ ―  新旧ふたつの干支が仲良くオブジェとして並んで飾ってあった。

 

 

「 あ・・・ 干支かあ〜〜 」

「 ・・・エト? 」

「 うん。 まあ・・・その年の守り神さま、かなあ・・・毎年順番で巡ってきてさ。

 その年のしあわせを運んできてくれる ・・・って聞いたことがある。 」

「 ・・・素敵ね。 ア・・・あの二人・・・ 

 

    ―  うん、 そうらしいよ・・・・

 

    ―  そうだったのね

 

ジョーとフランソワーズは手を繋いだまま二つのオブジェにちょこっと会釈をした。

どうやら 無事に <引継ぎ> は完了した・・・らしい。

 

   新年は もうそこまでやってきていた。

 

 

 

***********************       Fin.      **********************

 

Last updated : 01,04,2011.                      index

 

 

 

***********     ひと言    **********

前書きが全てを語っていますが・・・・

お正月用小噺・・・と笑ってかる〜〜くスルーしてくださいませ。

ともかく! ワタクシ的には フランちゃんは 

 わあ〜〜〜っ! 」 なんて泣かないのです・・・!

 

タワーで撮った写真には フランちゃんだけ が写っているのかな??